r1116「富良野上川線」という突飛かつ壮大な路線名にワクワク感を覚えるのは私だけではないかもしれない。
 かつての開発道路に指定されたこの道、結局路線名の通り開通する見込みはなくなってしまったのだが、レガシーと言える山岳区間を多数抱える興味深い道路である。
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 北海道道1116号富良野上川線 第1部 [美瑛町字上宇莫別→美瑛町忠別]
 美瑛町のはずれの方、観光地として有名な丘陵からも離れた宇莫別地区。
 夢の大規模道道の端っこは人気のない静かな場所だった。

 北海道道1116号富良野上川線 第2部 [美瑛町忠別→東川町ノカナン]
 旭岳に向かうr1160と重複しながら忠別湖を迂回する。
 1年に1ヶ月だけ走れるという「幻の道道」はその先、チョポチナイゲートから先の山道である。

 北海道道1116号富良野上川線 第3部 [東川町ノカナン→東川町北7線+おまけ(r611)]
 第2部で紹介した道の続きは緑深い山林に佇む線形良好な2車線区間。
 途中の橋梁から上川盆地を遠望できる様子は「幻の道道」の評判と相まってとても有名だ。

Report 3/3

 1.5車線区間をクネクネと走り続けると突然現れる開削区間。ここからついにr1116が本気を出します。

 開削部に入るとすぐに2車線区間となる。勾配も緩やかに落ち着いている。ここから終点までずっとこのクオリティの道が続くのだが、2車線区間の末端にゲートはなく、この場所もまた1年に1ヶ月しか通れない。

 開削区間を登るといつの間にか盛土区間となる。道路の規格が今までとぜんぜん違う。

 お察しの通り、r1116は当初こんな規格の道路が建設されるはずだった。土木技術を結集して、開削や盛土、そして橋梁やトンネルでこの山中をスイスイ突き進めるような、そんな道になるはずだった。

 このカーブからは上川盆地に広がる旭川市街地をはるか遠くに望むことができる。これまでの道路の姿から見当もつかない眺望に、いったいどこに迷い込んできたのだろうという不思議な気持ちになる。

 しかし2005年、国交省の事業再評価により、この規格で残区間の建設を進めた場合、事業期間が更に30年以上かかると予想されるとともに、費用便益比(B/C比)0.4という評価結果が下された。そこで当時未着工だった区間(第1部・第2部で紹介した区間)は現道活用を含めた1.5車線での整備に思いっきり計画が変更されたのである。

 まだまだ上り坂が続くが、これまでの狭隘区間から考えると全く気にならないレベルである。

 通行車両が非常に少ないせいか、舗装の雰囲気も使われないまま年数が経過しているように見える。

 この道だったら大型車でも余裕で通行できるし、その気になれば通年通行可能になったかもしれない。でも、何度も繰り返すが、こんな道でもこの区間は1年に1ヶ月しか通行できないのである。r1116が話題になったのは、単に通行可能期間が短いだけでなく、「幻の高規格道路」といった印象が強かったことも背景にある。

嶺雲橋

 先程の開削部を抜けると、嶺雲橋(長さ406m)にかかる。

 カーブしながら谷を越える非常に立派な橋で、これだけでも道道としては超立派なのだが、この橋のポイントはそれだけではない。

 橋からはこのように付近の森林と上川盆地に広がる田園地帯・市街地を一望することができる。この景色も、「1年に1ヶ月しか見られない絶景」としてネット上で話題になった。

 なお、嶺雲橋は橋桁の高さが谷底から50m以上ある大きな橋で、目を凝らせば旭川市や東川町からもその存在を見ることができる。

 橋梁はカーブしながら谷の向こう側へ続いている。このときばかりは天気に恵まれた。

 嶺雲橋の完成は1996年とのことで、事業再評価が行われた8年ほど前のことである。これまでの通行量自体はとても僅かだが、既に開通から25年経過していることを踏まえると、近い将来きちんと維持されるのか疑問である。

 道路は標高500m以上の山中を突き進む。路側の白線が引き直されている箇所があるのを見るに、維持管理はちゃんと入っている。

 嶺雲橋より先には、祥雲橋、景雲橋という2つの橋梁が短い間隔で存在している。

 どうやらこの2つの橋の完成は1992年とのことで、清水橋より4年前に完成している。

道道1160号交点

 r1116はここを左折する。

 前述の通り、2車線区間の完成は1.5車線区間よりかなり前のことで、遅くとも2006年には橋梁以外砂利道であるものの通行可能だった(もちろん、1.5車線区間が完成していなかったので行き止まりである)。その頃のの開通期間は、むしろ今より長かったように記憶している。

 この道路が未完成のような不思議な印象を受けるのは、この区間は冬期に道路端を示す「矢羽」が存在しないからかもしれない。通年通行とするつもりがない限り、そういった標識類は必要ない。

 橋の間は木々に覆われているところもあるが、視界を阻まれる程ではない。

 両側をガードロープで囲まれた走りやすい区間が続く。

 こんな快適な道が1年に1ヶ月しか開通せず、効果を発揮できていないのは惜しいことだと思う。短絡的かもしれないが、コストダウンで費用便益比を何とか1.0以上に乗せた結果、開通区間が大幅に縮んで結局は1.0を下回る効果しか発揮できなかったというストーリーを想起してしまう。

 左折:r611 東川市街
 直進:r611/r1116 旭川 21世紀の森

 ついにr611交点の道道標識が現れる。こんな山の中にきれいな案内標識があること自体ギャップの塊のようなもので、非常にワクワクする。

 直進した先はr1116とr611の重複区間という扱いだが、この重複区間は2019年の道路現況調書には総延長として含まれていない、つまり正確にはr611の単独区間である。

東川北7線ゲート

 ここでゲートが現れる。撮影地点の後ろ側にr1116の唯一の道道標識が存在している。

東川北7線ゲート

 参考として、2019年8月に撮影した写真を掲載する。くぐり抜けることはできるけど、見ての通り通行止。

 撮影当時の通行止理由は「地滑りの恐れがある為にて通行止め」とされていた。その地滑り区間は、第2部で通ってきたチョボチナイゲート付近にあたる。

 ゲートをくぐって道道標識と案内標識を間近に撮ろうと思ったとき、案内標識の裏側に蜂の巣があるのを発見した。道道標識だけを撮って速やかに引き返すことに。

道道1116号終点

 東川北7線ゲートを通過すると、すぐにr611瑞穂東川線の丁字路がある。

 道道としてのr1116はここで終点となる。

 開発道路としての富良野上川線はこの先旭川市東旭川町瑞穂まで建設・開通している。r1116も本来はここを直進し上川町方面に延伸するはずだったことから、おまけとしてもう少しレポートしようと思う。

 交差点の直後にr611瑞穂東川線の道道標識が立っている。

 しばらく走ると旭川市に入る。道路の規格は相変わらずで、そのまま下り勾配が続く。

 旭川市に入ってもなお下り勾配が続く。もちろん、走りやすい。

瑞穂ゲート

 左折:r611 旭川
 右折:ペーパンダム

 奥に市道/既存道道との分岐となる丁字路がある。r611はここを左折するが、右折するとペーパンダム、そして旭川21世紀の森がある。

 20年弱旭川に住んだ筆者でも、21世紀の森に来たことは1度しかない。こんな山奥まで行かなくてももっと便利な森林公園が他にあるからである。

 瑞穂ゲートのある交差点。r611はここを左折してもう少し進むが、開発道路としての指定区間はここまで。ここから上川町白川までは開発道路に指定された歴史もなく、北海道が整備する予定だったと見られるが着工されないまま今に至る。

 開通していたら上川、愛山渓温泉と美瑛を結ぶショートカットルートとして十分な効果を発揮してくれたかもしれないが、その間に旭川紋別道が開通するなど事情は変わっている。現時点では、壮大な計画は夢のまま終わったと考えざるを得ない。

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最終更新:2021年1月23日